Plan-1『雌豚のケツにビンタ(キックも）精神』


『――警告――』

・このお話は、管理人が腹の中に溜めているドロドロを吐き出すために書き殴ったもので、非常に醜く、不健康な代物となっております。
・暴力シーン、グロテスクな描写、アンチテーゼ的な要素を今後多数含む予定であり、そういった描写を不快に感じる方は回避を推奨します。
・現在低速進行中の本編と直接的な関係ありませんが、いくつかのネタバレ要素を含みます。
・タイトルに深い意味はありません。

・『いつものつまらん任務』

自由率いる組は先に展開する小隊へ追加物資を届けるため、
小型トラックと大型トラックの2両に分乗し、なだらかな丘の続く地形を進んでいた。
前の小型トラックには自由、劔、竹泉、多気投が乗っている。
後ろの大型トラックには運転席に輸送科の扇が、荷台に唐児と出倉の姿があった。
車列はなだらかな丘の続く、開けた空間を進んでいる。
「おぉい、まだつかねぇのか？」
「今、半分くらいだ。黙って周囲を見張れ」
退屈そうに聞いた竹泉に、自由が答えた。
「チッ」


「……見えた、あいつらね」
暗い空間から、一人の女が様子を伺っている。
「リングキャットより全車へ、攻撃準備」
女は襟元のインカムに向けて言い放つ。
「行くわよ、卑劣な悪党共に正義の鉄槌を！」
『『『了解！』』』


・『誰も得しないサプライズ』

「お使いとか勘弁してほしいもんだぜ、そもそも関係ないところまで首を突っ込みすぎたのが間違いなんだよ」
竹泉は相変わらず愚痴をまくし立てている。
「いい所で切り上げとけば、今頃陣地でコーヒーでもすすっていられただろうによぉ」
「いつまで愚痴っている気だ！黙って見張りをしろと言って――」
愚痴り続ける竹泉に、劔が叱責の声を上げる――だが、
「おげッ！？」
「わぁッ！？」
突然爆音が響き、劔の台詞は途中で遮られた。
車列の左側で爆炎が上がり、
発生した衝撃波が車列を煽り、小型トラックが揺れた。
「なんだぁ！？おぉいッ！？」
「ヅッ、また糞魔法攻撃か！？」
突然起こった事態に、多気投がうろたえ、竹泉は魔法攻撃を疑う。
「違う、今のは砲撃だ！」
竹泉の言葉を自由は否定した。
「はぁ？砲撃だぁ！？んな、馬鹿な事があるわけ――！？」
「ヘェイ！あれみろや！」
竹泉の疑問はすぐに解決された。
多気投が車列の左斜め後方、背後にある丘の頭頂部を指し示す。
「嘘だろ……」
そこへ姿を現した物に劔等は己の目を疑った。
丘の向こうから現われたのは、複数の戦車と装甲車だ。
そして、自由等はそれらのシルエットに見覚えがあった。
「………おぉい、誰がこんな悪趣味なドッキリパーティーをこさえたんだぁ？
71式戦車が3両、96式装輪装甲車が2両に84式偵察警戒車が1両、
――ご丁寧にどいつも漏れなくこっちを狙ってやがるッ！」
※(71式戦車、84式偵察警戒車　……　それぞれ74式戦車、87式偵察警戒車の自由等の世界における名称)
双眼鏡を覗く竹泉が、現われた謎の戦車隊の詳細を捲くし立てる。
それらは遠目に見る限り、自由等の属する陸軍が保有している装備と同じものだった。
そしてあろうことか、その全てがこちらへと砲口を向け、攻撃の意思を示していた。
「ど、どうなってんだぁ！？」
「全車飛ばせ！あれと距離を離せ！」
「クソッ！」
自由が指示を出し、劔はアクセルを踏み込む。
同時に後続のトラックも速度を上げた。
「どこのバカだ」
自由は無線を開き、謎の戦車部隊に向けて呼びかけを始めた。
「そちらの戦車部隊、応答しろ！こっちは54普通科連隊！味方だボケ、撃つんじゃねぇ！」
無線に向けて叫ぶと、数秒後に返答が返ってきた。
『そのような部隊はわが軍には存在しない。それに、あなたたちのような軍人の片隅にも置けない奴らに、仲間呼ばわりされる言われなど無いわ！』
「………あぁ？」
だが、返ってきた内容は、全く持って要領を得ない物だった。
思いもよらない返答に、自由等の顔は怪訝な物になる。
「おい、日本語は理解できてんだろうな！？もっぺん言うぞ！こっちは北部方面隊、第54独立普通科連隊だ！
　テメェ等がどこの部隊で、何を糞勘違いしてるのか知らねぇが、とにかく寝ぼけたアホズラで砲撃するのを今すぐ中止しろ！」
『勘違いなどしては居ないわ。あなたたちは倒されるべき存在……そしてあなたたちを葬るのは、私達は皇国陸軍、第7機甲師団、偵察騎兵隊！
　正義を遂行し、あなたたちにのような非道を行う下劣な存在を討ち倒す者。今からあなたたちに裁きを下します！』
「………何の話だってぇ！？」
敵のまくし立ててきた台詞に、横で聞いていた竹泉が疑問の声を上げる。
「こ、皇国……？」
相手は、攻撃を中止するどころか、正体不明の名を名乗り、
あげく完璧にこちらを敵だと言い放ってきた。
「てめぇの頭に、脳みその代わりにふ菓子が詰まってんのは分かった。だからいいか、その欠陥品の耳と頭をフル活用してよーく聞けぇッ！
　なんだか知らんがこっちに交戦する理由は皆目ねぇぞ、まずはそのご自慢のブツを引っ込めて一から十まで説明しろ！」
『ぬけぬけと――よくそんな台詞を並べられるものね、怒りを通り越して呆れるわ……。あなたたちがエルフのお姫様にしたことを、忘れたとは言わせないわよ！
　すぐに今までの非道を後悔させてあげるわ。さぁ！正義の鉄槌を――』
ブツっという音がして無線からの声が途絶えた。
話が通じない。
そう判断し自由が無線を切ったのだ。
「挨拶も通じねぇな」
多気投がちゃかす。
「交渉決裂だ、奴等攻撃してくるぞ！全速、丘の死角に逃げろ！」
自由は劔と後続のトラックに指示を出す。
「なぁ、今言ってたエルフってまさか、水戸美さんを回収した時に戦った……」
「だろうな。奴らが何を華麗に糞勘違いしてんのかは大体想像つく。だが今は――」
その直後、再び砲撃が車列を襲った。
砲撃は後続の大型トラックのほぼ真後ろに着弾。
「ッ！？」
「げッ！」
「ひぁぁッ！？」
発生した爆風によって、唐児等の乗る大型トラックは宙へと舞い上げられた。
「唐児ッ！」
トラックは空中で180度回転、真っ逆さまになって地面へと落下し、キャビン部分がグシャリと潰れるのが見えた。
「やべぇぞ！唐児達が吹っ飛んじまったぜぇッ！？」
「クソ、回収しねぇと！」
吹き飛んだ大型トラックを目の当たりにし、多気投と竹泉がそれぞれ叫ぶ。
「劔、そのまま丘の向こうまで走れ！」
だが自由は小型トラックを直進させる指示を出した。
「な！？だが！」
「唐児達はどぉすんだッ！？見捨てる気かよ！？」
その指示に劔は困惑し、
竹泉は目を剥いて、自由に食って掛かった。
「喚くな！いいかよく聞け――」


・『気色悪い三門芝居』

丘の頭頂部で、戦車が3両、楔状に展開している。
その後ろには装輪式の兵員輸送車と偵察装甲車の姿も見えた。
一番先頭の戦車の上には、戦車長用キューポラから上半身を出し、先を眺めている女の姿があった。
結い上げた髪と凛とした目つきが特徴的だ。
『恋華三尉殿。敵トラックは横転中破。小型車輌のほうは丘の向こうに逃げて行きます』
「仲間を捨てて逃げていく気……？ふん、信念の無い悪党らしいわ」
インカムに入った部下からの報告に、恋華と呼ばれた女三尉は、顔をしかめて吐き捨てる。
彼女こそ、この戦車3両と装甲車からなる偵察騎兵小隊の隊長だった。
『どうするのぉ？恋華隊長？』
部下に代わって、妖艶な声がインカムから聞こえた。
声の主は、恋華の乗る小隊長車の右手に居る戦車、"ミニ・ウィドウ"の戦車長である凛音という女だ。
「追撃するわよ。戦力的に見れば微々たる物だけど、あんな非道な連中を見逃すつもりは無いわ」
『隊長殿に同意だ。やつらには慈悲無き裁きを与えねばならん』
今度は、堅苦しい口調の声がインカムから聞こえる。
左に位置する戦車、"ムシャヒメ"の戦車長の澪奈だ。
「ミニ・ウィドウ、ムシャヒメの両車は本車と共に前進、敵を追撃する」
『了解よぉ』
『了解した』
恋華の命令に、それぞれの戦車長から返答が返ってくる。
「ハニー・レオはセイバーズを搭載したまま私達戦車隊に随伴。シュガーウルフはフルメタルスを降車展開、破壊したトラックを調べて。
　レディアイは高所より全周を警戒、全チームを支援して」
続けて恋華は、後ろの走輪装甲車二両とそれぞれに搭乗する二つの歩兵部隊、そして偵察装甲車に命令を送る。
『はい！』
『任せてくれ！』
『了解です！』
全ての部隊からは、元気な返事が返ってきた。
「みんな準備はオーケーね……あいつらは絶対に許さない……」
静かに呟き、確固たる意志を固める恋華。
「……？」
しかしその直後、彼女は妙な視線を感じた。
見れば、車内の砲手と装填手が彼女の顔をじっと見つめていた。
「え……な、何？どうしたのみんな……？」
「あ、すみません。その……恋華三尉、素敵だなって……」
「へ？」
隣に座る装填手の少女が発した突然の言葉に、恋華は素っ頓狂な声を上げる。
「衛実ったら、あの時の事を思い出したんでしょ？」
「あ、あの時？」
砲手の少女が発言したが、恋華は思い当たる節がなく疑問の表情を作る。
「ほら隊長、前の任務で暴漢からこの子の友達を助けた事あったでしょ？ムシャヒメの装填手の子。
　その時も今みたいな感じでしたよ。凛とした目つきで��あなたの友達は必ず助ける！�≠ﾁて言って」
「え、あぁ、あの時ね……」
過去にあった出来事を、恋華は乗員達に言われて思い出した。
「正直なトコ、あの時はあたしも痺れちゃいましたよ！」
『その後はちょっと怖かったけどねー、得意の体術で男共を一人残らずバッタバッタだもん。でも……わたしも嫌いじゃないですよ』
砲手や操縦手の少女は、恋華の事を誇らしく語る。
「え……え……？」
対して恋華本人は、急に上がった自身の話題に戸惑うばかり。
「あの時の隊長……その、格好良かったです！」
そして装填手の少女が、赤らめた顔と尊敬の眼差しで恋華に告白した。
「ちょ、みんなからかわないでよ！こんな時にッ！」
空気に耐えきれずに、恋華は大声で発した。
先ほどの鋭い表情とは打って変わり、恋華は顔を赤らめて狼狽した。
『あらあら、かわいいやり取りしちゃってぇ』
『戦いの前だが、微笑ましくて良いと思うぞ』
さらに無線越しに、各戦車長の凛音や零奈まで茶々を入れてきた。
「ちょ、ちょっと……！ホントにやめてってばぁ！」
唐突に仲間達から弄られ出し、恋華の顔は真っ赤になる。
慌てふためく姿も普通の少女のそれだった。
『はは。冗談はさておき、今ので隊長殿の緊張もほぐれたのではないか？』
「……ええ、そうね」
いつのまにか強張っていた体が軽くなっている。
それを感じ、恋華も小さく笑みをこぼした。
「よし！」
恋華はその一言と共に、気持ちを切り替える。
「みんな、これはまだ前哨戦ですら無いわ。あいつら、そしてあいつらの背後にいる存在。全てを倒して、エルフの姫様達の仇を討つ！」
彼女の凛とした声色と台詞によって空気が変わる。
それは車内に留まらず、小隊全体に伝播。
小隊全体を心地よい緊張感が支配した。
「さぁ、みんな準備はいいわね？……行くわよ、全車行動開始！」
『おしおき開始ねぇ』
『ムシャヒメ、参る！』
恋華の合図と共に全車両が行動を開始した。


・『正偽の乙女戦車隊』

偵察車以外の全ての車輌は、先ほどまでいた丘を下り、目の前に見える次の丘を目指して前進する。
「ミニ・ウィドウは本車と共に直進、前の丘に上がって敵を確認、殲滅するわ。
ただしミニ・ウィドウは本車と間隔を取って」
『ちょっと警戒しすぎじゃなぁい？』
「油断は禁物よ、相手が対戦車兵器を持ってる可能性もあるわ。ムシャヒメとハニー・レオは丘を迂回して左翼より回り込んで」
『全滅の危険を避けつつ、包囲を敷くのだな。了解だ隊長』
恋華の指示を受け、各車はそれぞれの行動に移る。
恋華の乗る戦車長車、リングキャットと後続のミニ・ウィドウはものの十数秒で
前方の丘の頭頂部へと到達した。
「いたわね、臆病者が。一目散に逃げていくわ」
丘の頭頂部から、丘を下りきり逃走してゆく小型車輌の姿が確認できた。
「あらあら、無様ねぇ。まぁ、今からもっと悲惨なことになっちゃうんだけどぉ」
「さぁ、狩の始まりよッ！」
その言葉と同時に、リングキャットの105�o戦車砲が火を吹いた。
敵車輌のやや後方で爆炎があがる。
「ッ、命中せず」
「焦らないで。照準し続けて、同軸機銃で追い立てなさい」
「はい、三尉！」
リングキャットの砲手は攻撃手段を同軸機銃に切り替え、小型車両に向けて発砲した。
「いいわ、敵は動揺してるはず。ミニ・ウィドウ、敵車輌の少し先を狙って撃って」
恋華はミニ・ウィドウに指示を送る。
『了解リングキャット』
リングキャットの命令を受け、ミニ・ウィドウが主砲を発砲。
だが発砲直後に敵車輌は進路を換え、砲弾は命中しなかった。
『あ〜ん、おっしぃ！にくたらしい動きするわぁ！』
「ッ、思ったよりもすばっしこいわね。命がかかってるから必死なのかしら？
逃げる方向まで予期して――」
「三尉！危ない！」
突如、部下の砲手の叫び声が響く。
それを耳にした恋華は、即座に戦車内へと半身を引っ込める。
その直後、リングキャットの右側やや上空を対戦車砲弾が掠めて行った。
「三尉！」
「三尉殿、大丈夫ですか！？」
「ッ、大丈夫、平気よ。ちょっとびっくりしちゃったけど」
恋華は自分の身を案じてきた部下たちを安心させるために微笑んだ。
そして再びキューポラくぐり、半身を戦車上に表す。
「案の定、対戦車兵器を持っていたわね……なめた真似を」
そして眼下の車両に鋭い視線を向けた。
小型トラックは進路を変え、側面をこちらに向けて走っている。
車上に対戦車兵器よ思しき物を持つ人影が見えた。
「こっちとやりあう気？」
『あらあら、ヤケをおこしちゃったのかしらぁ？』
「愚かな選択よ、走行中の車両から撃って当たるわけ無いじゃない。……敵の練度は高くないようね」
「んしょっ、装填完了です！」
装填手から次弾装填完了の報告が上がる。
「よし。第二射、撃てぇッ！」
恋華の乗る戦車が再び発砲、105mm砲弾が撃ち出された。


リングキャットの撃った砲弾が敵車輌の近くに着弾。
大分近くで着弾したが、敵車輌は未だに健在だった。
「なかなか粘るわねぇ。ふふ、いじめがいがあるわぁ」
狭く薄暗い空間、戦車"ミニ・ウィドウ"の中で、長い髪の女が妖艶な声で呟く。
「凛音様、次弾装填完了です！」
「車体姿勢も修正完了です、凛音姉様」
装填手と操縦手の女が、それぞれ凛音に報告を上げてきた。
「素早いわ、上出来。さすが私の子猫ちゃん達ね」
文字道理、子猫でも可愛がるような声色で、部下を褒める凛音。
『相変わらずだなお前は』
そこへ通信が入る。
『ミニ・ウィドウ、ムシャヒメだ。左翼に回り込んだ、正面に敵を捉えてる』
敵車輌の進行方向に、回り込んだ恋華のムシャヒメが見えた。
「あらぁ恋華、残念ね。あれを射止めるのはあたし達のほうが早そうよぉ？」
『ふん、あんな小物くれてやる。袋のネズミをいたぶっても面白味は無い』
「クールねぇ。あたしはネズミちゃんをいじめるのも、だぁいすきだけど」
「うわぁ、凛音様こっわーい」
凛音の加虐的な台詞に、ミニ・ウィドウ装填手がふざけた合いの手を入れる。
(本当に怖い……)
一方、ミニ・ウィドウの砲手の少女は、背中に寒気を感じていた。
『まったく、いつもいつも悪趣味な奴だ』
凛音の台詞に、澪奈はやれやれといった風な返事を返す。
「でもぉ、あんまり長引かせすぎても萎えちゃうわねぇ、いじめてあげるのもここまでかしら。砲手ちゃぁん、ネズミちゃんは？」
「は、はい！ご命令道理、進行方向を照準し続けてます！」
砲手は砲塔を操作を続け、照準に敵の車輌を捉え続けている。
「うっふふ、上出来よぉ。それじゃ――撃ちなさい」
凛音は今までのふざけたものと打って変わった、冷たい口調でそう命じた。
「お、仰せのままに！」
言われるがままに、砲手はトリガーに力を込める。
「さぁ、これでお・わ・り――」

次の瞬間、爆音が響き、衝撃が走った。

それは小型車両が戦車砲弾に葬られる音色――ではなかった。
「ッ！？え、何ッ！？」
小隊長の恋華が狼狽える。
爆音がすれども、前方に見える敵小型車両は健在。
それもそのはず、爆音と衝撃の発信源は、恋華の乗るリングキャットの右手やや後方から。
「………なッ！？」
恋華が振り返ると、
そこに位置していた、凛音の乗るミニ・ウィドウが爆発炎上していた。


・『で、プランは？』

数分前。
「いいか、よく聞け。トラックは丘を越えたら、一瞬だけ奴等の死角に入る。
そしたら、お前等二人はトラックから飛び降りて、木立なり土手なりに飛び込んで身を隠せ」
「はぁぁッ！？」
自由の言葉に竹泉が声を上げるが、自由は相手にせずに続ける。
「俺と劔はトラックで奴等の眼の前に飛び出て、連中の注意を引きつける。その間にどっか攻撃に適した位置を探せ」
「え！？」
今度は、囮に付き合わされる事になった劔が、聞いてないと驚愕の表情を浮かべている。
しかし、自由は無視して話を続ける。
「準備ができたら、どれでもいい。撃てる奴を一両を撃て！
一両でも吹っ飛べば隙が出来るはずだ。それを突いて、残りはこっちでなんとかする」
「正気か！？相手は戦車三両だぞ！？」
「冗談だろ、私は反対だぞッ！？」
「なぁんとかって、どぉーすんだよ！？」
自由が説明を終えた瞬間、竹泉、劔、多気投が一斉に捲し立てた。
「なんとかだ」
自由は多気投の質問にだけ、一言で答えた。
「唐児達を置いてく気はねぇだろ。最初の一両を吹っ飛ばした後の戦闘手段はお前等に任せる。別の指示があるまでは、とにかくてめぇの身を守れ」
「冗談こくな、いかれてやが――」
竹泉が講義の声を吐き出そうとした瞬間、トラックは丘を越えて敵の死角に入った。
「よしいけッ！」
「ファアォッ！？」
「ふっざけんな糞がぁッ！」
小型トラックが丘を越えた瞬間、.
竹泉と多気投は装備と共にトラックから放り出された。
「とにかく一両やれ！それと死ぬな！」
「あぁ、糞野郎がぁッ！」
自由の指示を背中で聞きながら、二人は視線の先にあった木立へと飛び込んだ。
「よし、速度上げろ」
「本気かクソッ」
劔がアクセルを踏み込み、小型トラックは速度を上げて丘を下りだす。
その直後、エンジン音とキャタピラ音を唸らせ、丘の向こうから戦車が現われた
「うぁ、出てき――」
次の瞬間、敵戦車が発砲。戦車砲弾が後方に着弾し炸裂。小型トラックを煽った。
「―――ひぃ」
劔は着弾の衝撃に言葉を失い、数秒かけてから小さな悲鳴を絞り出すように上げた。
「あぶねぇな」
しれっと自由は一言った。
「し……死ぬ！自殺行為だ！近くを掠めただけでもバラバラになるぞ！」
言葉を取り戻した劔は目に涙を浮かべて喚きだした。
「だからアクセル踏んでろ、止まるな！」
今度は機銃弾が小型トラックの周辺にばら撒かれ、内いくつかが車体に穴をあける。
「ぃッ！？」
「ビビるな！ハンドル右に切れ！」
小型トラックが進路を変えた瞬間、砲撃の第2射がさっきまでいた場所に着弾し小型トラックを揺さぶる。
「ぐぅ……おいッ！相手は私たちを誤解してるんだろ！？なんとかして説得できないのか！？」
「そいつは降りかかる火の粉を払ってからだ。それよか今度は左に切れ」
「はぁ！？相手に横腹を見せる事になるぞ！？」
「それでいい、奴らの注意をこっちに引き付けるんだ」
小型トラックが敵を真横に見るように進路を変える。
自由は積んであったカールグスタフを構えると、適用に照準をつけて発砲。
撃ち放った弾は戦闘の戦車のやや上空を掠めて、明後日の方向へ飛んで行った。
「ま、当たるわきゃねぇんだ」
吐き捨てながら、自由はカールグスタフを荷台に放り投げた。
「外したのかクソッ！？」
「回避運動中の車上から撃って当たるわけねぇだろ、これは気休めとこけ脅しだ。
　竹泉なら当てたかもしんねぇがな」
次の瞬間、またしてもすぐ近くで戦車砲弾が炸裂。
巻き上げられた土や砂が小型トラックに降りかかった。
「ぶぁっぷッ！？」
「おーぅ――フェアじゃねぇな。竹泉、敵の射撃が正確になってきた。急げ」
自由は無線で現状を伝え、竹泉等を急かす。
『今、場所を探してる。ちょっと待ってろ！』


・『衝撃のファースト竹泉』

「糞、行くぞ多気投！」
「どえらいことになったぜェ」
小型トラックから放り出され、木立へと身を隠した竹泉と多帰投。
今はその木立を離れ、戦車の後ろを取るべく、丘の影を利用して這い進んでいる。
先ほど小型トラックが越えた丘は、緩やかなカーブを描いていて、それを伝っていけば敵戦車の斜め後ろを取れるはずだった。
「とんだ博打だ、どうなってもしらねぇぞ！」
愚痴を吐きながら、丘の影を這って進む竹泉と多気投。
二人はしばらく進み、適当な位置で停止した。
「多気投、周りを見張ってろ」
竹泉は雑嚢から手鏡を取り出すと、
それを指ではさみ、丘の尾根より少しだけ突き出した。
手鏡を先ほど越えた丘の方向に向けると、
そこに居座る戦車や装甲車の後方と側面が見えた。
「戦車と装輪装甲車は自由のほうに夢中だ。問題はアレか」
そして手首を使って手鏡を動かし、別包囲を確認する。
後方、周辺で一番高い丘の頂上に、偵察警戒車が居座り周囲を見張っていた。
車両の周りには偵察員と思わしき人影も確認できた。
「しっかり見張りを立ててやがる……どっか一つでも違えばミンチだな」
「マジかよ」
「……位置関係は大体分かった。行くぞ」
竹泉は手鏡を引っ込めると、再び移動を開始する。
「ヘイ、あそこから撃たねぇのか？」
「鏡を見たやつがいるかもしれねぇ、念のため場所をずらす」
そこへ、無線から声が飛び込んで来た。
『竹泉、敵の射撃が正確になってきた。急げ』
「今、場所を探してる。ちょっと待ってろ！……あいつはどんだけ無茶な注文すりゃ気が済むんだ？」
愚痴りながらも、竹泉は目星をつけた場所に到着。
カールグスタフの準備を始める。
「よぉ多気投、プランをよく聞けよ。俺が今から身を乗り出してハチヨンをぶっ放す。
　お前は俺がぶっ放したその瞬間に、なんでもいいから即座に俺を引っ張り下ろせ。
　方法は足を掴んで引きずり下ろすでも何でもいい、とにかく即座にだ！」
「オーケー、オーケー。分かったってェ」
しつこく言う竹泉に、多気投はなだめるように返事を返す。
「ちょっとでもモタつきゃ、俺は機関砲に狙いをつけられて細切れだからな。
あぁ、もし俺のミンチ姿を見たいってんなら、話は別だがよぉ」
「そいつも興味はあるが、今はオススメ道理にさせてもらうぜぇ」
「ああそうかよ、ありがてぇ……！」
準備の整ったカールグスタフを抱え、竹泉は一呼吸吐く。
「よしッ！」
そして気合の一声と共に、丘の影から身を乗り出す。
身を乗り出したその瞬間に、目についた一両の戦車に向けてカールグスタフを撃ち放った。
「――あだぼッ！」
撃ち放った瞬間、竹泉の足首がむんずと掴まれ、竹泉は顔面を地面と擦り合わせながら、土手の下まで引きずり降ろされる。
離れた個所からの爆音が聞こえたのはそれとほぼ同時だった。
そして、3〜4秒ほどの間隔をあけて、先ほどまで竹泉の体があった場所を、25mm機関砲弾が抉り出した。
「べっぷ！糞がぁボケぇ！」
口に入った土を吐き出しながら、悪態も同時に吐く竹泉。
「早えな！ほんとに狙ったのかぁ？」
「音はそれっぽいが、どうだろうなぁ！おい自由、どうだぁッ！？――」


・『自棄？自殺？自滅？否、プラン！自由クオリティー』

「うぁッ！？――おい、まだなのか！？」
再び機関銃による銃撃に晒される小型トラック。
ここまで奇跡的に致命弾こそ回避してきたものの、
度重なる銃撃や砲撃の影響で、小型トラックはすでにボロボロだった。
「気張れ、あと数秒だ」
「保証は無いだろッ！？いつ吹き飛ばされるか――おい、前ッ！？」
小型トラックの進行方向に、別の戦車が一両現れる。
丘を迂回して、こちらを包囲すべく回り込んできたようだ。
「前からも戦車だ！クソッ、囲まれ出してる！」
劔は戦車の包囲網から逃れようと、ハンドルを切ろうとする。
が、横から伸びてきた自由の腕が、ハンドルを掴んでそれを止めた。
「ッ！？おい何をするッ！」
「……使える」
自由は劔の問いかけには答えず、一言呟いた。
「ッ！おい、お前何を考えて――」
自由の呟きに嫌な気配を感じ取り、声を上げようとした劔。
しかしそれを遮るように、背後で爆音が轟いた。
「！？」
音の発生源は丘の上。
劔が振り返ると、丘の上に陣取っていた敵戦車の片割れが爆発炎上していた。
「よぉし、今だぁ！」
その瞬間、自由は掴み留めていたハンドルを思いっきり切った。
劔が切ろうとしていた方向と、まったく正反対の方向へ。
「痛ッ！？」
そして自由は劔の足ごと、アクセルを全開まで踏み込む。
急なカーブを描いた小型トラックは、フロントを丘の上の敵戦車へと向け、
敵の包囲のど真ん中へ全速力で飛び込んでいった。
「――ッ！！あぁぁぁぁッ！？」
操縦の権利を自由に持っていかれた劔は、とりあえず悲鳴を上げる事しかできなかった。
『おい自由、どうだ！』
その時、無線に竹泉の声が飛び込んで来た。
「ジュっといい音聞こえたけどよ、ちゃんと火は通ったか！？」
「あぁ、たいしたもんだ。程よい感じでザクっと焼きあがるだろうよ」
『そりゃあ、よぅござんした。できれば感謝は口頭じゃなくて形で頂きたいモンだがよぉ？』
竹泉は皮肉たっぷりの口調で文句を垂れ流す。
「残りはこっちでなんとかする。そっちは自分の身を守れ！」
竹泉の皮肉と文句を聞き流し、自由は通信を切った。
「オォイッ！オイお前ェッ！？気でも触れたか、自殺でもする気か！？何考えてるんだチクショウ！」
それと入れ替わりに、ほんの少しだけ思考の戻ってきた劔が、
自由の袖を掴んで喚きたてる。
「うるせぇ、落ち着け。ハンドルは俺が操る、お前はとにかくアクセル全開に保ってろ！」
「死ぬ気か！？」
「死にたくなければやれッ！」
「………クッソォオオオオオッ！」
劔は、普段美女と評されているその顔をくしゃくしゃに歪め、
叫び声と共に、すでに前回のアクセルをさらに力を込めて踏み込んだ。
小型トラックは戦車目がけて肉薄する。


続く

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